現在「2年間」と労働基準法で定められている賃金債権の消滅時効を、
令和2年4月から「3年間」に改める法改正を労働政策審議会は
昨年末(令和元年12月27日)厚生労働大臣に建議しました。
※建議:行政機関へ意見を述べること
民法の改正
今回賃金請求権の消滅時効の変更が建議されるきっかけとなったのは、
令和2年4月から改正民法で一般債権に関する消滅時効が変更されることからです。
【現行民法での消滅時効】
・一般債権:権利を行使できる時(客観的起算点)から10年間
・職業別の短期消滅時効:
(1年の消滅時効とされる「月またはこれより短い時期によって定めた給与に係る債権」も含む)
【改正民法での消滅時効】
①権利行使できることを「知った」とき(主観的起算点)から5年間
②権利を行使できるとき(客観的起算点)から10年間
・・・改正により職業別の短期消滅時効が廃止となります。
現在民法上では賃金請求権は「職業別の短期消滅時効」が適用されて1年です。
しかし、消滅時効が1年では労働者の保護に欠けるという主旨で労働基準法により退職金を除く
賃金請求権の消滅時効は2年となっています。
(昭和22年法律第49号)
今回の改正民法で「職業別の短期消滅時効」が廃止され、債権の時効が「5年」となるため、
労働基準法上での賃金債権や有給休暇(2年間)、書類の保存期間(3年間)などの時効について
労働政策審議会で審議されていました。
今回の建議「賃金等請求権の消滅時効の在り方について(報告)」より3つのポイント
1)賃金請求権の消滅時効期間は、原則5年とするが当面は「3年」とするべき
⇒現行の2年から5年へと長期間の消滅時効期間にすると、労使の権利関係を
不安定化する恐れがあるため、時効期間について慎重に検討する必要がので、
改正法の施行から5年経過後の施行状況をみて再度期間を見直す。
2)消滅時効の起算点は、現行の労働基準法の解釈・運用をそのまま引き継ぎ、
「権利を行使できるとき(客観的起算点)」を維持して労働基準法に明記するべき
3)施行日は改正民法の施行日と同じ「令和2年4月1日」とするべき
施行期日以後に賃金の支払期日が到来した賃金請求権の消滅時効期間について、
改正法を適用すべきとされています。
賃金以外の請求権の消滅期間はどうなるの?
賃金請求権以外の労働基準法上定められた請求権は現行のまま維持すべきとされています。
・退職金 ― 5年
・年次有給休暇請求権・災害補償請求権 ― 2年
・帰郷旅費 ― 契約解除の日から14日以内
・退職時の証明 ― 労働者が請求した場合、遅滞なく交付
・金品の変換 ― 権利者が請求した場合、7日以内に返還
労働者名簿や賃金台帳といった書類の保存期間(記録の保存義務)については、
労使紛争解決や労働監督上の必要から証拠を保存する意味を踏まえ、
賃金請求権の消滅時効期間に合わせた
「原則5年としつつ、当分の間は3年」
とすべきとされています。
今回の賃金の消滅時効期間の変更は規定された昭和22年以来なので73年ぶりです。
賃金債権は会社にとって定期的&大量に発生します。
12月には大手コンビニチェーンの計算ミスによる残業代未払いがニュースになりました。
会社は消滅時効期間の変更に備えて、
賃金計算&残業代の管理(勤怠記録や残業時間の計算)を
今一度見直された方が良いかもしれません。
おまけ
明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします。